BEST KEPT SECRET ー39ー


「ぎ、ギロロ君……ちょっといいかな」
 ドロロがギロロに思い詰めた様に声を掛けたのは、朝の作戦会議の後だった。
「何だ、どうした?」
 珍しい、という驚きを表情に浮かべながら振り返るギロロ。
「……ここじゃちょっと……、その、相談が……」
 普段とは違う狼狽気味の口調が、ドロロの心情を表していた。
「分かった。何処がいい?」
「じゃあ、拙者の家で」
「了解」
 ドロロのおどおどとした様子に疑問を覚えながら、ギロロはさして考える事無く、上着を羽織った。

 数分後、ドロロの家に移動した二人は囲炉裏を囲み、落ち着かない様子で茶を啜っていた。
「で、相談とは何だ?」
 正座したドロロは、ギロロの言葉に意を決したように湯飲みを置き、口を開いた。
「その……小雪殿の事でござる」
「あの、地球の女暗殺者か」
 ギロロは夏美にベタベタとする小雪の姿を思い浮かべ、少し眉間に皺を寄せる。
 少々不機嫌そうなギロロの様子には気付かず、ドロロは伏し目勝ちに膝の上で拳を握る。
「ギロロ君は、夏美殿と……その、恋仲で、ござるよね……?」
「っ、何をいきなり……」
「…………羨ましいでござる」
 ぽつり呟くドロロの言葉に、ギロロはどう反応していいものか悩み、一瞬の後にドロロの呟きから導き出された答えに、自分の思考ながら狼狽した。
「ドロロ、お前、まさか」
 顔を伏せ、拳を固くするドロロ。
「小雪殿とは、その、同士というか……そういう、性差を超えた……関係と、思っていたんだよ……。……なのに」
 既にドロロは、かしこまった普段の口調から、幼少の頃の普通の口調に戻ってしまっていた。俯いたまま語るドロロの様子に何も言えず、ギロロは腕を組んだまま無言で先を促した。
「それが、先日から……その、ばてれんでーとかいうちょこれいとを貰ってから、変に意識しちゃって……。僕、おかしいのかな……」
 何も言わず、暗殺者から一人の男に戻ってしまったドロロを、ギロロはじっと見詰める。その表情は静かで、何も読み取れない。
「小雪殿の事を考えると、何故か胸が痛くて、……その、体が熱くなるような……変なんだ」
 少し顔を赤らめながら、情け無い表情で胸を押さえるドロロに、ギロロがぽつり呟いた。
「ドロロは、その小雪の事を、……好きなんだろ?」
「……好き、そうかも知れない。そうだと思う。でも……」
「でも?」
「今までの関係が、壊れてしまうかと思うと……怖くて」
 ドロロの肩が少し震える。あぐらを組み直し、肘を突き掌に顎を乗せたギロロが、自分にあてがわれた湯飲みに冷めかけた茶を注ぎ足す。
「……ガラにも無い事言うかも知れんが、笑うなよ」
 何気を装いながら、ドロロから目を逸らしたギロロが前置きをしたから口を開いた。
「俺の経験だがな、好きになったら、その……自分の意志では止まらんのだ。辛くて悲しくてな、思いが暴走してしまう」
 中空に目をさまよわせたまま独り言のように呟くギロロを、顔を上げたドロロがじっと見詰める。
「……だからな、好きなら好きって、後先考えずに、言っちまったらどうだ? その、相手の気持ちはどうだか解らんが、その後はその後の事だ」
「でもギロロ君」
「何だ?」
 ドロロの不意の問い掛けに、漂わせていた視線をギロロはドロロに合わせる。
「もし、お互いが好き同士であったとしても、僕等はケロン人で……。ギロロ君は、その事どう思ってる?」
「だから、後先考えないんだよ」
 軽く目を閉じ、自嘲じみた微笑を浮かべながら、ギロロが腕を組み直す。
「後先考えてたら、そんな……惚れた腫れただの言ってられないさ。そりゃ、俺達はケロン人で、侵略者で、相手は地球人だ。でも今は……少しだけでも夢を見てもいいんじゃないかと、俺はそう思ってる」
 それは甘えかも知れないがな、と付け加え、ギロロは照れたように笑った。
「ギロロ君……!」
「これは飽くまで俺の意見というか考えだがな。楽観的と言われても仕方無いが、まあ、色々考えてたら何も出来なくなってしまうしな」
「ううん、そんな……。参考になったよ、ありがとう!」
 潤んだ瞳でギロロを見上げながら、がっしりとギロロの手を握るドロロ。
「僕、まだよく自分の気持ちが解らないけど……、頑張るよ!」
「……俺がこんな話をした事、他の奴等には内緒だぞ?」
「解ってるよ、ギロロ君」
 照れながら笑うギロロと、気弱げに微笑むドロロ。
「僕達、友達だよね」
 恋に悩む二人の異星人が手を取り合う中、窓からは燦々と初春の日差しが降り注いでいた。

 恋の悩み、二人だけの秘密。肝心な時に頼りになる、それが理想のベスト・フレンド。




<後書き>
 前回より随分……本当に随分お待たせしました。結局ホワイトデーには間に合わず……orz
 という事で、今回はドロロとギロロという異色の組み合わせ。でも二人、性格は全く違えど置かれてる状況は似ているという事で、これはこれでこういう展開もアリかな、と思って。
 ちょっと短いかな、とも思ったのですが、久々に時間が出来たので、せめて思い付いたワンシーンだけでも書いておこうと思って。


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